招待アーティスト紹介 ナディン・バルドウさん(ドイツ)

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バルドウさんについて

バルドウさんは1990年、ドレスデン生まれ。現在はベルリンで活動する現代アーティストです。

これまでに個展は12回、グループ展は18回、受賞や奨学金受給、アーティスト・イン・レジデンス採択などの合計が22回。出身国であるドイツを含めて15カ国で展示やアーティスト・イン・レジデンスなどを経験しているという、まさに国際的に活躍する若手作家です。

バルドウさんの軌跡

1990 ドレスデンに生まれる
2010-13ガルミッシュ・パルテンキルヒェンの木工・デザイン職業学校でミヒャエル・フォン・ブレンターノに師事。
2013-14ドレスデン美術大学でカール・エマニュエル・ヴォルフに師事。
2014-2018ドレスデン美術大学でエバーハルト・ボスレットに師事。ディプロマとマイスターシューラーの学位を取得。
2021アイルランドのリートリム彫刻センターでアーティスト・イン・レジデンス
2022スロヴェニアのゴルジニー・グラッドでアーティスト・イン・レジデンス
2022リトアニアのVERPĖJOSにてアーティスト・イン・レジデンス
2022アイルランドのリートリム彫刻センターで個展「トポフィリア」
2023アイスランドのSIMレジデンシーにてアーティスト・イン・レジデンス
2023-24福島県広野町にて「鳥小屋」アーティスト・イン・レジデンスと個展(予定)
2024カナダのイースタンエッジ・ギャラリーにてアーティスト・イン・レジデンスと個展(予定)

開催予定の個展が一つ、開催予定のグループ展は二つあるとのことですが、今回、広野国際アーティスト・イン・レジデンスに招待されましたので開催予定の個展が増えて二回になりましたね。そして日本が彼女にとっては16カ国目の目的地となります。

ドイツ独特の学位「マイスターシューラー」

バルドウさんの経歴を見て、おやっと思われた方もいらっしゃるかと思います。

日本の場合、高校を出て美術大学や芸術大学に進学し、人によっては大学院にも進んで芸術学修士(Master of Fine Arts)を取得するという学び方になりますが、ドイツは学校制度が欧米諸国の中でもかなり独特なので、芸術系の人の中には美術大学・芸術大学・音楽大学から大学院といった学歴にならない方もいらっしゃいます。

具体的に説明しますと、日本で小学校4年生に当たる学年が終わった時点で大学を目指すギムナジウムと、職業訓練学校(基幹学校・実科学校)へと進路が分かれます。

バルドウさんは(おそらく)この時にギムナジウムではなく実科学校に進み、木工の実務経験を3年間積んだ上で20歳の時に木工・デザイン職業学校に入られたはずです。

11/13 追記:バルドウさんはギムナジウムでアビトゥーア(卒業試験)をクリアしてから木工・デザイン職業学校に進まれたとのこと。

バルドウさんが学んだガルミッシュ・パルテンキルヒェンの木工・デザイン職業学校の動画です。

バルドウさんはこの学校を卒業してドレスデン美術大学に進み、最終的にマイスターシューラーという学位を授与されています。

この学位はドイツ語圏で中世から続く職人の徒弟修業の最終段階に位置づけられるもので、師匠が「この学生は修行を終えた」と認めたら与える称号です。ですから、大学から授与される博士号とは違って、どの教授から授与されたかまで明記するのが普通です。バルドウさんはランドアートやインスタレーションの先駆者の一人、エバーハルト・ボスレット教授からマイスターシューラーを授与されています。

なお、日本ではドイツとの協定によりマイスターシューラーは博士号と同等として扱うことが決まっています。

バルドウさんの作品づくり

鳥小屋プロジェクト実行委員会では、最終審査会用にバルドウさんを始め4人の外国人応募者のアーティスト・ステートメントを日本語に訳して配布しました。最終審査会には中学生も参加しましたから、現代アートの専門家にしか読み解けないような難解な文章ではなく、中学生でもわかるような文章にする必要がありました。

Final Judging Session/ 最終審査会の様子

そこで、実行委員会はアーティストの皆さんに予めその必要性を説明した上で、事前に日本語訳を送付して内容を確認してもらって、人によっては何度もメールをやり取りしながら細かく修正していって、校閲が終わったものを最終審査会用のハンドアウトに掲載しました。

ここではバルドウさんの許可をいただいて、バルドウさんのアーティスト・ステートメントの日本語訳をご紹介します。

ナディン・バルドウさんのアーティスト・ステートメント

私は自然と人間を一つのものとしてではなく、それぞれ全く別のものと考えています。そのどちらもが、とてつもない力を持っています。

私は、人新世という考え方をもとにアーティストとしての活動を行っています。人新世とは、人類の活動の痕跡が地球という惑星に刻み込まれた時代という考え方です。

特に私が重視しているのは、「文化」と「自然」がどれだけ複雑に絡み合っているかということ、そして、この二つが今もお互いに影響を与えあっているということです。

私たち人類は今も「自然の一部」なのでしょうか? 私たち人類が形作ってきた現在の自然環境は「新しい自然」なのでしょうか?

私はドイツのアルプス地方で伝統的な木彫りの職人として修行をしました。(大学院で)芸術を学んだのは、職人修行を終えた後です。私は大学院に入ってから人生で初めて都会での生活を経験しました。その頃に作っていたのは、人工の素材を使った彫刻作品やサイトスペシフィック作品[1]でした。人工素材を使って、まるで生き物のような形を持つ作品を作りました。これが「占領されたものたち」というシリーズです。

「占領されたものたち」で私が問いかけたのは、自然を思うがままに従えようとしている私たちの生活のあり方の是非です。「占領されたものたち」シリーズでは日常生活で目にする品々が、真菌[2]のような形のものに乗っ取られています。真菌のようなものがその「宿主」である日用品を変形し、覆い尽くし、腐食しているのです。

2020年から私は、風景の調査をもとにサイトスペシフィック彫刻作品を作るようになりました。今、私が作品づくりに利用している素材は、私が作品づくりをする土地環境の現地調査から得ています。ある素材をどこかの土地で見つけたとしましょう。その素材は、人々がその土地とどのように関わっているのか、人々とその土地の間がどのような「親しさ」で結ばれているのかを、私に教えてくれるのです。

私はこれまでにリトアニア、スロベニア、アイルランド、アイスランドの田舎でこうした作品づくりをしてきました。それらの現地調査をしていた時、私は自分と自然の関係を見つめ直すために、色々なことに挑戦しました。羊の群れを世話する羊飼いの仕事をしたり、電気も水道もない森の中の小屋で生活したり。

私はこのような生活に挑戦することで、自然をロマンチックに見るやり方以外の視点からも自然を見られる人間になろうとしています。


[1] その場所でしか作れないアート作品のこと

[2] カビやキノコのこと

実行委員会より

バルドウさんは12月の11日頃に来日されて、広野では朝夕にフィールドワーク、昼間は「ひろの未来館」のスタジオで作品づくりをされる予定です。

スタジオにはどなたでも気軽に立ち寄って欲しいとのことです。

また実行委員会ではバルドウさんのレクチャーやワークショップも準備しています。

広野町民の皆さん、そして町外からの参加も大歓迎です。

ご質問、ご提案などがありましたら下のフォームからお送りください。